高齢者介護のあれこれ

介護相談員の在宅介護ガイド

高齢者に多い病気のこと、知っておこう!(後編)

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前編(高齢者に多い病気のこと、知っておこう!(前編) - 高齢者介護のあれこれ)に続き、高齢者に多い病気、治療法、医療器具について簡単に紹介します。

 

1.痰の吸引(たんのきゅういん)

 

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痰の吸引は、口腔内、のど(咽頭、喉頭)、鼻腔、気管、気管支などに溜まっている分泌物(主に痰ですね)を、吸引器を利用して除去することをいいます。痰が気道内にたまると呼吸困難や窒息の原因になるために、場合によっては窒息死につながります。また、痰などの分泌物が誤嚥(ごえん:間違って気道に入る)すると細菌などを増殖させることによって誤嚥性肺炎を引き起こすこともあります。

 

痰の吸引は医療行為であるため、基本的には医師や看護師などの医療スタッフのみ行う事ができます。最近では介護スタッフでも研修を受けることで痰の吸引ができる場合がありますが、研修期間が長いことからあまり普及していません。そのために24時間随時痰の吸引が必要な高齢者は普通の老人ホームの入居ができないことも多く、医療機関や24時間看護師が常駐する施設に入居することが多いです。

 

2.在宅酸素療法 / HOT(ざいたくさんそりょうほう/ほっと)

 

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在宅酸素療法とは、病院ではなく自宅で酸素を吸引する治療法です。病院に入院している患者の場合、病状が安定していても血液中の酸素量が少なくなると退院できなくなることがあります。この時に自宅での生活ができるようにするために在宅酸素療法を利用します。

 

在宅酸素療法とはいえ、病院で使っている人工呼吸器のようなものではなく、鼻の周りに垂らしたチューブから高濃度の酸素を送り込むことから普段の呼吸でも多量の酸素を吸い込められるようにするものです。在宅酸素療法の対象になる患者は、肺気腫(はいきしゅ)、間質性肺炎(かんしつせいはいえん)、肺線維症(はいせんいしょう)、肺結核後遺症(はいけっかくこういしょう)、など呼吸器疾患が大半を占めます。そのほかにも、心疾患や神経疾患、ガンなどの場合でも利用されることがあります。

 

3.在宅人工呼吸器 CPAP & BiPAP(ざいたくじんこうこきゅうき シーパップ & バイパップ)

 

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在宅人工呼吸器は、患者自身の力で安定した呼吸ができない場合に、強制的に酸素を送り込んだり、呼吸のテンポに合わせて呼吸を助けたりする医療機器です。在宅酸素療法よりも呼吸に問題を抱える患者が利用するもので、呼吸以外では入院する必要のない患者には自宅復帰に大いに役立ちます。

 

在宅人工呼吸器はいくつか種類がありますが、CPAPとBiPAPが代表的です。CPAPは睡眠中無呼吸症(閉鎖性睡眠無呼吸/OSA)で利用される比較的に簡易なもので、継続的に酸素濃度の高い空気を流し込む医療機器です。その反面BiPAPは、中枢性睡眠無呼吸症(CSA)、慢性閉鎖性肺疾患(COPD)、成人呼吸障害症候群(ARDS)、呼吸不全など、比較的に重い症状に患者が利用します。BiPAPは急に呼吸が止まった時や、息を吸って吐くタイミングに合わせて強弱をつけて酸素濃度の高い空気を流すのでCPAPよりも呼吸しやすく、より重い呼吸障害の方にも利用してもらえます。気管切開の患者の場合はBiPAPを利用する患者が多いですね。

 

4.ストーマ・人工肛門・人工膀胱(すとーま・じんこうこうもん・じんこうぼうこう)

 

ストーマは消化器官や尿路の疾患によって、便または尿を出せなくなった患者が利用する医療処置です。ストーマを利用する患者はオストメイトと呼ぶことあります。ストーマは、消化管ストーマと尿路ストーマの2つに分けますが、消化管ストーマは下腹部に大腸からの便を出す人工肛門、尿路ストーマが人工膀胱といいます。人工肛門は大腸を、人工膀胱は尿管を加工して下腹部にだし、便や尿を自動的に専用のパウチに集めて処理します。本来普段の生活から介護や生活支援が必要な高齢者の場合は障害手帳が取得できることがあり、介護タクシーや医療費が事実上無料になることがあります。

 

5.動脈硬化によるカテーテル手術Ⅰ(どうみゃくこうかによるかてーてるちりょうⅠ)

 

 

動脈硬化のカテーテル手術は、動脈硬化による血管の狭窄(きょうさく)などの合併症が重い場合に行います。手術は、カテーテルと呼ばれる細い管状の医療器具を血管から挿入して行う「カテーテル手術」、動脈硬化などで詰まったり狭くなったりした血管の迂回路(うかいろ)を作るバイパス手術(バイパスは脇道という意味)があります。カテーテル手術は、太ももの付け根、手首、ひじなどに小さな穴をあけるだけで、血管に細いカテーテルを入れて異常のある動脈の手術ができるので身体の負担が少ないです。

 

6.動脈硬化によるカテーテル手術Ⅱ(どうみゃくこうかによるかてーてるちりょうⅡ)

 

カテーテル手術は大きく、『ステンド手術』と『バルーン手術』の2種類があります。正式ではステンド留置療法と呼ばれるステンド手術は、ステントと呼ばれる金属でできたメッシュ状(網状)の筒(つつ)をバルーン(細長い医療用の風船です)にかぶせて血管に挿入します。その後、血管が細くなった場所に到達するとバルーンを膨らませて金属製の筒で血管内を広げ、バルーンは引き抜いて外します。これで血管内が広まった状態が確保できるので血流が円滑に流れるようになります。

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バルーン手術は、溜まった老廃物によった狭くなった血管のところに、細いワイヤーを利用してバルーン(風船)を送り込んで膨らませ、血管自体を広くすることで血流を円滑にします。

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7.心不全(しんふぜん)

 

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心不全とはなんらかの原因(心筋梗塞、弁膜症、高血圧など)で心臓の障害が起こり、それにより全身の血液に十分な酸素が送りこけない状況のことを言います。これは病気そのものではなく、病気による症候群を意味します。心不全は飲み薬による治療を行う事が多いですが、致命的な不整脈がある場合は埋め込み型除細動器(身体に埋め込んで心臓麻痺を引き起こす「細動」を除去するもの)を埋め込む場合もあります。また、飲み薬では十分に治療できないこともあり、特殊なペースメーカーを埋め込んだり、人工心臓や心臓移植が必要な場合もあります。心臓部分を外科的に開く手術の場合は、回復とリハビリ、退院まで数週間以上かかります。

 

8.心臓ペースメーカー(しんぞうぺーすめーかー)

 

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心臓ペースメーカーは、心臓の筋肉に微弱な電気刺激を与えることで、心臓の正常な心拍運動を助ける医療機器です。心臓から出た心拍のシグナル(信号)をペースメーカーが感知し、ペースメーカーは心拍が不安定な場合に微弱な電流を流して不規則な心臓の動きを安定化します。ペースメーカーの本体は楕円形(だえんけい)で、大きさは種類によって異なりますが、おおむね直径4~5cm、厚さ5~6mmくらいです。

 

9.脱水症状による老衰(だっすいによるろうすい)

 

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暑さと喉の渇きが感じにくい高齢者は、夏場にエアコンなどの冷房設備をあまり利用しないことが多く、脱水症状や熱中症になることが多くあります。人は生きるために1日に約2リットルの水分が必要で、食べ物に含まれる水分を含めると1日に2.5リットルもの水分を摂る必要があります。1日に身体から抜けていく水分は、摂った成分量によっても影響しますが、息や汗で失われる水分は1日に約2.5リットルもあります。つまり、人は1日に2.5リットルの水分を摂ってはじめて体内の水分量が安定に保てるのです。

 

身体の中の水分の割合は、子供で約60~70%、成人になると約60%、高齢者になると約50%と加齢と共に減っていきます。そのために同じくらいの汗を流しても子供よりは高齢者のほうが脱水症状に陥りやすく、高齢者はこまめな水分補給で十分な水分を摂る必要があります。脱水症状や熱中症は十分な水分を摂って安静にすれば大体は回復しますが、症状が発症したときに転倒することで骨折や脳震盪(のうしんとう)など、重介護状態のきっかけにもなるので十分に注意する必要があります。

 

10.圧迫骨折(あっぱくこっせつ)

 

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圧迫骨折は、外部の衝撃や椎骨(ついこつ:背骨を構成する骨)の弱まった状態で脊髄の椎体(せきずいのついたい:背骨を構成する骨)に力がかかり、骨折を起こして潰れる病気のことを言います。胸椎(きょうつい:背骨の中心部にある12個の骨)と腰椎(ようつい:腰の部分の5個の骨)を中心に発症することが多いです。

 

高齢者の多くは骨粗しょう症を患っていて骨が弱く、軽い力が加わっただけで骨折する場合もあれば、ほとんど外圧がかからなくても骨折することがあります。また高齢者の場合は室内で尻もちをついたくらいであっても骨折した可能性があるので、痛みを訴えたら脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)を疑ってみる必要があります。

 

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最近では折れたり潰れたりした脊椎に、背中部から椎体内に骨セメント(メチルメタクリレート:人工骨の材料のひとつ)を注入して行う治療法もあって大きな手術なく直せる場合もあります。しかし一般的な入院期間の場合は高齢者の場合はおおむね3か月程度が多く、退院後も弱った筋力のためにリハビリ病棟に再入院する場合も少なくありません。

 

前編から後編まで20つの病気やケガ、治療法などを紹介しました。高齢者になると様々な身体の不具合が発生してしまいますが、健やかな老後のためにも普段からの健康管理には十分に気をつけましょう。