高齢者介護のあれこれ

介護相談員の在宅介護ガイド

高齢者に多い病気のこと、知っておこう!(前編)

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日本人の平均寿命は男女合わせて約84歳。世界有数の長寿国です。しかし日本人の老後は決して元気で明るくはありません。75歳以上の後期高齢者のほとんどが様々な病気やケガで薬に溺れんばかりの生活を送っています。いつ突然訪れるかもしれない高齢者の病気やケア、医療処置、老衰について簡単に覚えておきましょう。

 

1.人工透析(じんこうとうせき)

 

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人工透析とは、腎不全の末期症状において、低下した腎機能の代わりの役割を果たす医療処置のことを言います。腎臓の働きが10%以下になると血液のろ過が十分に行えず、水分や老廃物のコントロールができなくなってしまいます。このような場合に、人工的に血液の浄化を行うのが人工透析です。

 

人工透析は人工透析器(ダイアライザー)を通じて、血液を身体の外に取り出し、血液中の老廃物や余分な水分を取り除き、浄化された血液を体内に戻します。血液を身体の外に取り出すために、腕の静脈と動脈をつなぎ合わせる簡単な手術を行う必要があります。血液の人工透析は1回あたり4~5時間がかかり、1週間に2~3回行う方が多いです。

 

2.脳血管疾患(のうけっかんしっかん)

 

脳血管疾患は大きく2つに分類されます。

 

1つ目は「脳梗塞」、脳梗塞は脳の血管が血栓(血の塊)によって詰まってしまい、そこから先へ酸素や栄養が運ばれなくなって脳の組織が破壊されてしまう病気です。脳の血管が動脈硬化を起こして血管が細くなり、血流が途絶える状態を脳血栓といいます。脳血栓は心臓などでできた血栓が剥がれて脳血管に詰まった状態を脳塞栓といいます。脳血栓は主に高齢者によく発症する病気で、知的障害、運動障害、言語障害などが徐々に進行します。脳塞栓は突然の半身のまひやけいれんによって起こることが多いと言われます。

 

2つ目は「脳出血」、脳出血は脳の血管が動脈硬化によってもろくなっているときに血圧が高くなると動脈が急に破裂して脳の中で出血が起ります。脳出血は多くの場合、突然意識をなくして倒れ、深いこん睡状態に陥って身体のまひを引き起こしてしまいます。

 

3.動脈瘤(どうみゃくりゅう)

 

動脈瘤とは、動脈血管の内壁がなんらかの原因で弱くなっているところが瘤(コブ)状に変化したものを言います。大きさは1mm~2mmくらいの比較的に小さなものから、30mmを超える大きなものまでさまざまです。動脈瘤は非常に破れやすいですが、多くの動脈瘤はクモ膜下空に存在するので、くも膜下出血の最大の原因になります。

 

手術法としては、クリッピング術、コイル塞栓術が代表的です。クリッピング術は、動脈瘤はあるところまで直接外科的処置をするために頭蓋骨の一部を取り除く必要があります。そして頭蓋骨の真下にある脳組織をはがして動脈瘤を金属製のクリップでとじ、動脈瘤に血液が流れて破れてしまうことを防止します。

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一方、コイル塞栓術と呼ばれる脳血管治療法は外科手術と異なって頭蓋骨をあけることはありません。太ももの太い血管からマイクロカテーテルと呼ばれる細い管を動脈血管内にいれて行う治療であるため、高齢者の場合は特にからだの負担が少なくて入院期間が短くなる利点があります。

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4.認知症(にんちしょう)

 

認知症とは既に社会的に広く知られた疾患です。認知症とは「生まれた以来正常に発達した精神機能が慢性的に減退、消失することで日常生活に支障がある状態」のことを言います。つまり、認知症は後天的に発生する知能の障害であるために知的障害とは異なります。

 

認知症の原因としてはアルツハイマー病がもっとも多いとされますが、さまざまな要因が影響しています。特に中枢神経系に問題が生じて起こる「レビー小体型認知症」や「脳血管性認知症」が代表的です。

 

5.鼻腔経管栄養(びくうけいかんいえいよう)

 

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鼻腔経管栄養は病気やケガではありませんが、経口摂取が難しい高齢者に必要な医療処置です。この処置を利用している患者は鼻から胃にいたるチューブを身体に入れて流動食を流し込みます。鼻腔経管栄養は患者の栄養状態が改善して口から食べ物が食べられるようになったり口から食べられる量が増えた場合は外すこともできる一時的な処置でもあります。

 

6.胃瘻(いろう)

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胃ろうとは、口から食べ物や飲みもの、薬などを飲みこめない場合に、胃に穴を空けてチューブを留置する医療処置です。このチューブを利用して、口から飲みこめなかった食べ物や薬などを流し込むことで患者の栄養状態を改善させるものです。主に、飲みこむ力が弱ったことによって頻繁に誤嚥性肺炎を発症する高齢者の場合、医師の判断で胃ろうを造設する場合が多いです。また、脳神経の障害によって自分の意志では食べ物を飲みこめない患者の場合でも胃ろうを造設することで栄養状態を改善させることがあります。患者の栄養状態と、経口摂取能力が改善すると胃ろうを取り外すこともできます

 

7.中心静脈栄養/IVH(ちゅうしんじょうみゃくえいよう)

 

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中心静脈栄養とは、消化器の障害などで口から食べ物が食べられない場合に、静脈から直接栄養を補充してもらう医療処置です。静脈の中に細いチューブを挿入して、身体に必要な水分やミネラル、栄養を供給します。この処置は、ガンなどによる消化管の通過障害など、様々な場合に利用されます。

 

中心静脈栄養を利用する患者がもっとも注意しなければならない点は、感染症です。感染の原因としては中部を挿入している皮ふからの細菌感染で、輸液セットや接続部の汚染などがあります。そのために輸液の交換の時などは中部の挿入部の消毒に気を付ける必要があります。

 

8.尿道カテーテル

 

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尿道カテーテルは、前立腺肥大症、または脊髄や末梢神経の障害、麻酔や薬の影響で排尿が難しくなった患者が利用する医療処置です。患者の絶対安静の時や長い手術のとき、残尿量を計る検査の目的などで利用されます。寝たきりの患者さんの場合は、長期にわたってカテーテルを利用するために、カテーテルが簡単に抜けないようにバルーン付きのカテーテルを利用します。カテーテルのケアはときに出血に繋がることもあるので、扱えるのは医師や看護師、そして十分な教育を受けた患者本人と患者家族のみです。高齢の女性患者の場合は尿道口が見つけにくいことが有るので、間違って膣に挿入しないように十分な注意が必要です

 

9.膀胱瘻(ぼうこうろう)

 

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膀胱の排尿機能に何らかの障害があって、正常な働きができない場合に強制的に排尿を可能にする尿路変更術のひとつです。下腹部の肌の上から膀胱にいたる穴をあけ、膀胱内に直接カテーテルをいれ、強制的に尿をからだの外に出します。患者の回復が見込めない場合は、「永久膀胱瘻」を利用しますが、病気や障害が治った後に元に戻すための「一時的膀胱瘻」があります。

 

手術は胃ろう造設手術と比べても比較的に簡単で、下腹部から膀胱までの距離が短いために、尿道から管を入れて尿を出すよりも衛生的だと言われています。

 

10.気管切開(きかんせっかい)

 

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気管切開とは、気管とその上の皮ふを切開して『気管カニューレ』という太いチューブををつなげることで呼吸のための気道を確保するための医療処置です。気管切開は気道の状況に関わらず確実に気道が確保されるといったメリットもありますが、身体への負担が大きいといったデメリットもあります。そのために、なんらかの原因で気道の確保が必要な患者でも原則として最初から気管切開を行う事はしません。

 

気管切開は気管を刺激するために、たんの分泌量が増えます。そのために定期的なたんの吸引を行って気道が閉塞しないようにする必要があります。気管周辺の消毒や湿度の維持、たんの吸引を怠ると、うまく呼吸できずに低酸素血症を引き起こすことがあります。また、溜まったたんによる誤嚥性肺炎を引き起こすこともあるので十分な医療、看護体制が必要です。

 

後編(高齢者に多い病気のこと、知っておこう!(後編) - 高齢者介護のあれこれ)に続きます。