高齢者介護のあれこれ

介護相談員の在宅介護ガイド

高齢者が食べる『介護食』って、どんなものなの?

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1.高齢者のほとんどが普通には食べられない

 

日本の高齢者率は平成28年で約27.3%、国民の4人の一人が高齢者です。この高齢者の600万人が要介護認定を受けていて、毎日の生活に人の手を必要としています。食べることや飲みこむこともままならず、やわらかくて飲みこみやすい食べ物を食べています。その結果、高齢者の7割以上が低栄養または低栄養状態の予備軍といわれています。このような高齢者は継続的に増えていくみこみで2045年には2人に1人が高齢者、食べることに障害を抱える人も必然と増えることでしょう。

 

そして日本の高血圧患者は約5500万人、糖尿病は約2000万人、脂質異常症は約4200万人に上ります。高血圧ひとつをとってみても、患者の数は国民の半数に上ります。このような生活習慣病は、塩分や脂質、糖質、タンパク質など、普段の生活では馴染みの少ない栄養素を徹底して管理する必要があります。若い方は比較的にこのような生活習慣病にはならないので、結局は高齢者を中心とした中高年層のほとんどが栄養管理の必要な患者であることが分かります。

 

したがって、日本の高齢者のほとんどは、嚥下(えんげ)、咀嚼(そしゃく)と生活習慣病を考慮した特別な食事が必要ということになります。このような栄養の管理を怠ると、持病の悪化による合併症を併発させたり、低栄養状態によって重い介護状態に陥りやすかったりと、寝たきり状態に向かってまっしぐらです。

 

2.加齢と共に衰える、咀嚼(そしゃく)と嚥下(えんげ)機能

 

人は食べ物を口に運んでいき、歯で食べ物をすりつぶして唾液(つば)と混ぜて味わいながら飲みこみやすくまとめ、舌を中心とした口の中の筋肉の動きによって食べ物は喉を渡って食道を通って胃に入ります。この一連の流れが『食べる』機能です。

 

しかし、高齢者になると多くの人が食べ物を噛み砕く力、つまり咀嚼(そしゃく)機能と、食べ物を飲みこむ力、つまり嚥下(えんげ)機能が低下して、普通の食べ物は食べられなくなります。

 

普通の食べ物を無理に食べようとすると、十分に咀嚼できずに食べ物に窒息することもあります。毎年お正月には高齢者が餅を喉に詰まらせて死亡する事故が多発することから介護施設では餅つき禁止令が出されることもよくあることです。

 

また、嚥下機能の低下によって食べ物が肺に入ってしまうと、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。肺炎は日本人の死亡原因の第3位、多くの高齢者が肺炎をきっかけに自立した生活からも重い介護状態に陥たり死亡に至っています。

 

この咀嚼機能と嚥下機能は、適度な水分補給や口腔ケア(口腔リハビリなど)による口腔環境の改善で改善することもありますが、うまく食べられない間は高齢者の咀嚼機能と嚥下機能、病状を考慮した介護食を食べる必要があります。

 

3.安全でおいしい、高齢者のための介護食とは?

 

高齢者の食べる機能を補ってくれる食事を介護食といいます。一般に介護食というと不味い病院食や、味気のないお粥を思い浮かべる人が多いです。しかし、介護食と言え、おいしくないと高齢者は食べてくれません。食べてもらえないとせっかく用意した介護食も意味がありません。

 

介護食とは、咀嚼しやすく誤嚥を防ぐためにも食事の形状(大きさや軟らかさ)と飲みこみやすい粘度(まとまりやすさ)を調整した食事で、生活習慣病を患っている場合は疾患に準じた栄養成分の調整を行う場合もあります。

 

咀嚼しやすく食べ物の大きさを人口サイズよりも小さく切ったり、咀嚼があまりにできない場合は食べ物をミキサーにかけたりとして食べさせることもあります。また、あえてミンチにした肉や魚を固めて再形成することもあれば、片栗粉やトロミ剤を利用してドロッと飲みこみやすくすることもあります。同時に病状を考慮して、醤油や味噌など塩分の多い調味料を減らして出汁(昆布だしや西洋のブイヨンなど)の旨味や牛乳(出汁代わりに利用します)の旨味を利用することもあります。

 

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▲歯で海苔と具材が噛みちぎれない高齢者のための、やわらか巻き寿司の例

 

介護食は、確かに軟らかい食事が多いので見た目には違いができますが、お肉や魚はもちろん、寿司や揚げ物に至るまでメニュー自体は健康で若い人が食べるものと変わりはありません。味気のないお粥こそが健康的で低塩分の食事だと勘違いすることなく、おいしい介護食で食べる喜びを失わせないことが重要です。

 

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▲魚をすり潰してから再形成した軟らかな介護食の焼き鮭の例

4.介護食の上手なつくり方は?

 

高齢者になると食べる量は減りますが、若い人よりも食事を抜かすことが少なくなります。つまり、朝、昼、晩、3食を少しずつでも摂っている高齢者が多いです。そのために、高齢者が介護食を必要とする場合、余って捨てることになろうとも1日に3回も介護食を用意する必要があります。

 

在宅で高齢者の介護をしている人は配偶者か子供がほとんどですが、高齢者の配偶者も高齢者、子供も50代以上の中高年が多いため、毎日の介護食づくりは大変なものです。そのために、介護食は一度で高齢者から子供までが一緒に食べられるものとして作ってこそ、介護の負担を減らして継続できます。

 

▲子供から要介護者まで美味しく食べられる介護食レシピの一例

 

 家族みんなが食べられる、やわらかで塩分の少ない介護食を作ると、毎回1食分だけの介護食だけを作り、介護食だけが食べられず捨てられることもなく、家族みんなで食卓を囲んで楽しく同じ料理を食べることができます。高齢の方も自分だけが違う食べ物を食べさせられるより楽しく食べられ、十分な量の栄養が摂取することも多いです。

 

介護は平均として11年以上にのぼる長い道のりです。

適度に市販の介護食も使いながら、継続できる介護をしていきましょう