高齢者介護のあれこれ

介護相談員の在宅介護ガイド

高齢者にやさしい食材『豆腐』、実は肺炎の原因?!

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1.高齢者の「食べられない障害」とは

 2017年の日本は、国民の4人の一人が65歳以上の高齢者といわれる高齢化社会のど真ん中にいます。人は誰もが歳をとり老いていきますが私たちは高齢者のことをよくわかっていません。高齢者になると、歩くことや話すこと覚えること、買い物での計算など、今まで普通にできていたことができなくなります。その中でも「食べる」機能の低下は高齢者や家族の健康に非常に大きな問題として襲いかかってくるものなので正しく知って早めに対処する必要があります。

 

私たちがご飯を食べるときは、食べ物を口に運び、歯で食べ物を切ったり、すり潰して、口の中の唾液(つば)と混ぜて味わいながら飲みこみやすくまとめ、舌を中心とした口の中の筋肉の動きによって食べ物は喉を渡って食道を通って胃に入りますこの一連の流れが「食べる」という複雑な動きなのです。ここで、元気な人は十分な咀嚼機能(そしゃくきのう:かみくだく力)と嚥下機能(えんげきのう:のみこむ力)で、問題なく食べ物を食べることができます。

 

しかし、咀嚼機能と嚥下機能が弱った高齢者は「食べる」ことがままならず、やわらかい食べ物しか食べられなかったり、食べ物が気道に流れこんで(誤嚥/ごえん)むせてしまったり、誤嚥した飲食物が肺に入り込んで誤嚥性肺炎を起こしてしまい、最悪のケースでは死に至ることもあります。元気な人であれば楽しいはずの食事も、嚥下・咀嚼障害のある高齢者には食事が苦痛になってしまい、食欲減退や低栄養状態を引き起こし、寝たきりのきっかけになることもあります。

 

2.介護食が必要な日本の高齢者

(1.高齢者の「食べられない障害」とは)で触れたように、高齢者は加齢とともに咀嚼機能(そしゃくきのう:かみくだく力)と嚥下機能(えんげきのう:のみこむ力)が衰えてきます。そのために、やわらかい食べ物を用意したり、飲み込みやすい食べ物を用意したりと、いわゆる「介護食」を用意する必要が生じます

 

①咀嚼機能とは?

咀嚼(そしゃく)とは、食べ物を小さく切ったり、すり潰して、唾液と混ぜながら飲み込みやすい塊(かたまり/食塊とも言います)にする作業を言います。つまり、咀嚼は飲み込む直前までの歯と口の中の動きを総じていう言葉でもあります。

 

咀嚼というと多くの人は単純に歯で食べ物を噛むことだけを思い浮かぶ人が多いですが、実は歯と舌、口の中の筋肉までもが連動して行うものです。その為に咀嚼機能の確認には、歯や入歯のほかにも舌の動きに問題がないか、唾液(つば)の分泌量が十分であるかもチェックします。

 

噛みごたえのある普通の食事が食べづらくなったからといって使っていた入歯も外して流動食(噛む必要のないドロドロとした食事)を流し込もうとする医療の専門家もいます。しかし食事は最後まで楽しめられるものでなければすぐに食べられなくなってしまいます。そのためにも、歯や舌、口の中の筋肉や唾液量などの総合的な口腔環境をきちんと評価してから流動食にするか、口腔リハビリを伴う普通食にするかなど、食べ方を決める必要があります

 

②嚥下機能とは?

 嚥下(えんげ)とは、口の中で咀嚼した食べ物を飲み込みやすい大きさにまとめ上げ、喉の奥に送り込み、食べ物を食道を通して胃に送る一連の流れを言います。元気な人であれば何も意識せずに行っている動作ですが、この嚥下機能が弱ってしまうと食べ物を上手く食道まで運べずに激しくむせてしまったり、肺につながる気道に食べ物が流れ込んでしまって誤嚥性肺炎を引き起こしたりもします。

 

 嚥下機能は基本的に舌、頬の筋肉から喉周辺の筋肉により生まれる筋肉の力ですが、食べるときの姿勢によっても嚥下能力は大きく変わります。たとえば横になったまま食事をとろうとすると気道が開きやすいためにむせたり誤嚥しやすいこともあります。そのために嚥下機能が弱った高齢者の場合は特に食事のときに体を起こす必要があります。

 

また、不思議なことに、嚥下と関係のなさそうな体の姿勢や、食べるときに使わない筋肉の疲労も、総合的に筋力の弱った高齢者には大きく影響するものです。座って食事をとっていても食事中の体が左右に傾いている場合(高齢者によくあります)は、高齢者が自らの姿勢を保つために無意識にいきむために嚥下機能を支える筋肉に力が入らずに嚥下困難になる場合があります。その為に、口から食べられずに胃瘻(いろう)を勧められる高齢患者の中でも、食べる姿勢を直すだけで口から食べられるようになるケースもあります

 

3.介護食として脚光を浴びる食材

 急速に進む高齢化と共に、嚥下や咀嚼に問題を抱える高齢者も急速に増えてきています。また同時に高齢者が食べやすい食材や果物の売り上げも好調に売れています。その代表的なものが「バナナ」と「豆腐」です。

 

バナナは調理が要らず、皮がむきやすく、値段が安く、やわらかく、栄養が豊富で酸味がないとの理由で高齢者が最もよく食べている果物と言っても過言ではありません。高齢者は食欲を失いやすく、バナナは低栄養状態に陥らないための日常的なカロリー補助食品としても喜ばれる果物です。

 

また、豆腐は日本人に馴染み深い伝統的な食材で、大豆で作られたという健康的なイメージ、やわらかくて味付けが比較的に簡単であるという理由から味にうるさい高齢者の介護食としてよく使われるようになってきています。高齢者のための介護食はやわらかかくてまとまりやすいゼリーやムースのようなものが好ましいために豆腐が選ばれているのです。

 

しかし、実は豆腐は嚥下障害のある高齢者には危ない食材です。確かに豆腐はやわらかいですが、口に入れて噛むと豆腐は意外と粘りがなくてパラパラと口の中に広まってしまいます。食べ物が口の中でパラパラと散ってしまうと、まとめて飲み込めずにむせてしまったり、口の中に散らばっていた食べ物が後から肺に入って肺炎を起こす恐れもあります。

 

嚥下障害のある高齢者は口の中で食べ物を上手く飲み込みやすい塊にまとめられないので、口の中にへばりつかずに食べ物はまとまりやすい粘着力が必要なのです。たとえば「パラパラチャーハンの中華あんかけ」のように、パラパラとしたチャーハンは嚥下障害のある高齢者には向かないですが中華あんをかけることで口の中でもまとめやすくなるのです。

 

 

4.豆腐を利用した料亭の介護食とは

介護食の食材として非常によく選ばれている豆腐ですが、上で述べたように意外と豆腐は口の中でまとまらない食材なのです。そのために咀嚼、嚥下障害のある高齢者のための料亭の豆腐料理は特別な手間を加えます。

 

①豆腐は一度潰して再度固める

豆腐は大変やわらかい食材ですが、かみ砕いたときにまとまりづらく高齢者には食べづらい食材です。そのために高齢者の介護食に詳しい料亭では豆腐を一度潰して、介護食用の凝固剤で再度固めています

介護食調理用の凝固剤を使うと豆腐にゼリー状の粘りが生まれ、口に入れた時も豆腐の触感を保ちながら口の中でまとまりやすいので飲み込みやすくなります。

②豆腐は水分を絞ってから出汁を吸わせる

豆腐は9割が水分でできている食品で、水ぽさが強いです。そのために旅亭では豆腐は一度水分を切って使います。布で絞ったり蒸したりして水分を絞ったあと、うまみ成分の豊富な干しシイタケや昆布などの出汁を吸わせるます。このような調理をすることでより濃厚な大豆の味を感じられるうえで、豊富なうまみ成分で高齢者の食欲を促します。

 

 このように、身体機能が衰えた高齢者の「食べる」ことは、若くて元気な人にはなかなか理解しづらいものです。そのために高齢者の食を考えるときは咀嚼と嚥下をよく考え、適度なやわらかさまとまりやすさを考える必要があります。やわらかければいい!といった安易な考え方では、せっかくの調理の手間が無駄になります。