高齢者介護のあれこれ

介護相談員の在宅介護ガイド

(医療編)これでも老人ホームに入れるの?

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 1.増える要介護者と老人ホーム人気

 

要介護者600万人の時代。国の介護保険サービスの縮小の中でも毎年老人ホーム入居者は増えていく一方です。老人ホームは賃料や食費込みで13万円から20万円が一般的で、介護、医療体制はもちろん看取りまで行うところが多いので、終の棲家として人気が高まっています。それに、老人ホームは療養病院などの医療機関と違って『高齢者の生活の空間』なので外出や趣味活動が比較的に自由にでき、自分らしい生活ができることも魅力です。

 

2.老人ホームの絶対的な入居条件は『感染症の有無』

 

高齢者は様々な健康上の問題があり、ほとんどの方が病院に通っています。75歳以上の後期高齢者ともなると糖尿病によるインシュリン注射、腎臓病による人工透析、高血圧による食事制限、経口摂取ができない方の胃ろう、消化器官が弱った方の中心静脈栄養(IVH)、そして頻繁に発症する肺炎や骨折など、高齢者は日々医療に頼った生活をしています

 

老人ホームは医療体制を整えたところが多いですが、それでも病院ではないので受け入れられる方の病状には限界があります。

 

老人ホーム入居基準になる最低限の条件は感染症がないこと』

 

老人ホームは高齢者の生活の空間なので、入居者が感染症にかかったときに隔離できる部屋を用意したり来客の手洗いを徹底したりと、いつも感染症の対策に努めています。免疫の弱く、室内の生活時間が長い高齢者にとって感染症は恐ろしいもの。そのために、細菌性肺炎や、MRSA(黄色ブドウ球菌)、ノロウィルスなど感染症のある方は入居できません。感染症がある方は病院で治してからの入居検討になります。

 

 3.医療依存度の高い方の老人ホーム入居について

 

また、点滴やインシュリン注射、たんの吸引(一部、有資格者の介護士も対応できます)などの介護士ではできない医療行為は全て看護師によって行われます。そのために看護師が24時間常駐する老人ホームと、看護師が日中のみ常勤する老人ホームでは対応できる医療行為が異なります。

 

そもそも老人ホームに看護師がいることを知らない方や、老人ホームは病院のように看護師が24時間常駐すると考えている方も多いと思います。基本的に老人ホームは日中のみ看護師が駐在していて、一部の医療依存度の高い方のための老人ホームは看護師が24時間常駐しています。また、24時間看護士が常駐する老人ホームはその分、月額費用が高いことが多いです。

 

それではどのような方であれば老人ホームに入居できるか、いくつかケースを交えて説明します。

 

①インシュリン注射が必要

→インシュリンの注射は1日2回までなら日中の看護師が対応できるため、一般的な老人ホームでも入居できます。1日3回のインシュリン注射が必要な方も、看護師の出退勤の時間が少し調整できる老人ホームであれば一般的な老人ホームに入居できます。

 

しかし1日4回以上のインシュリン注射が必要な場合は24時間看護師が常駐する老人ホームに入居する必要があります。24時間看護師が常駐する老人ホームは数も少なく、入居費用も高く、医療依存度が高い方の入居率が高いために雰囲気が暗いことも多いです。そのために、インスリン注射の回数が多い場合は主治医の先生の相談して1-2回のインシュリン注射は飲み薬に変えてもらうことで一般的な老人ホームに入居できることもあります。

 

②中心静脈栄養(IVH)を利用している

IVHの方は常に静脈に栄養剤注入のための針が刺さっていて、日常生活で針が抜けることや、認知症によって自分で針を抜いてしまう場合があります。この時に針を刺し直す行為は全て医療行為であって、医療従事者である医師や看護師でなければできません。針が抜けられてしまうことは時間を問わず起こるのでIVHを利用している患者は基本的に24時間看護師が常駐する老人ホームでなければ入居できません

 

③胃ろうを造設している

胃ろうの患者さんは普段からチューブ周りを清潔に保つために看護師がケアをしています。これは医療行為にあたるので一般の介護士はやってはいけません。しかし、このチューブの管理は頻繁に行われるものではないので24時間看護師が常駐する老人ホームでなくても入居できます

 

④尿道カテーテルを設置している

健康上の問題で尿道カテーテルや膀胱留置カテーテル、腸ろう、腎ろうなど、身体内部から外に繋がる管を設置する患者さんがいます。この場合でも多くの場合は管が抜けた時の医療行為のために24時間看護師が常駐する老人ホームでなければ入居ができません。一時的な尿道カテーテルの場合は入居が可能な場合もありますが、各老人ホームの人員体制を考慮した面談で入居可否が決まります。ただし、動脈硬化などの薬を飲んでいる方は、管が抜けるときの少しの怪我でも出血が止まらない場合があるために、体内に管を繋げている方はの入居は断る場合が多いです。

 

⑤点滴を打っている

一時的な点滴であれば日中の看護師が対応しますが、夜間の点滴が必要な方は24時間看護師が常駐する老人ホームでなければ入居ができません。そのため、点滴を飲み薬などに変えることができる場合は主治医と相談の上で調整して一般の老人ホームに入居することもあります。

 

⑥在宅酸素(HOT)を利用している

基本的に在宅酸素は老人ホーム入居に問題になりません。ただし、日中使用する酸素量が非常に多い場合や夜間の呼吸障害がある場合は対応できないこともありますので老人ホームの担当者と相談をする必要があります。CPAPやBiPAPなどの睡眠中の呼吸を補助する在宅用酸素呼吸器の場合でも同様、各老人ホームの担当者と対応について相談する必要があります。

 

⑦人工透析が必要

人工透析の患者の場合も老人ホーム入居には基本的に問題になりません。しかし人工透析センターとの契約と送迎まで老人ホームが対応するところは少ないです。もちろん、既に入居している人工透析患者の通う医療機関情報はお伝えしてくれると思いますが、あくまでも人工透析は入居者本人と家族が調べて対応する必要があります。入居を希望する老人ホーム周辺まで送迎の車が通う人工透析センターを自力で見つけ出す必要があります

 

⑧輸血が必要

腎機能が極めて弱い方は週1回の輸血など、輸血が必要な場合があります。ごくまれに医療機関併設の老人ホームには入居できることもありますが、基本的に輸血が必要な患者は24時間看護師が常駐する老人ホームでも入居ができません。療養病院への入院が現実的な結論になります。

 

⑨気管切開中の患者である

気道の確保など、様々な理由により喉の期間を切開している患者さんがいます。人間は通常、息を吸うときに吸い込む息に自然と湿度が加わります。しかし気管切開の患者はそのような機能が働かないので常に濡れたガーゼを利用する必要があり、気管に挿入しているノズル(気管カニューレと言います)の衛生管理と、喉に絡むタンの吸引が必要です。

 

これらのほとんどが介護職員では行えない医療行為に当たるために、気管切開の場合も大概は24時間看護師が常駐する老人ホームに入居する必要があります。

 

⑩月に1回、ずっとかかっている病院に通う必要がある

心臓疾患など、長年通っていた大学病院の先生に定期健診をお願いしたい患者さんも多くいます。この場合でも老人ホーム入居には問題になりません。月に1回など、回数が少ない場合は老人ホームのスタッフが病院まで付き添う(基本的に別途料金&保険外です)こともありますが、頻度が高い場合は家族が病院までの付き添いを行う必要があります。

 

4.まずは老人ホームの担当者と相談を行う事をオススメ

老人ホームによっても対応できる医療体制は異なりますが、老人ホームでは最大限入居希望者の状況に合わせて入居できる方法を模索してくれます。上で書いたような基準が一般に多い入居基準ですが、特殊な病状であったり、たまたま老人ホームのスタッフに欠員が出て対応できないこともあります。また、普段は対応できない病状の方でも家族と協力体制が築ける場合は入居が可能になることもあります。

 

老人ホームは病院のようにはいきませんが、思うよりも充実な医療体制を確保しているところが多いので、入居を検討しているのなら早めに見学にいって相談することをお勧めします