高齢者介護のあれこれ

介護相談員の在宅介護ガイド

認知症の種類と認知症患者への接し方について

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1.高齢者の5人に1人が認知症、しかし理解は足りず

 

2015年1月の厚生労働省の発表によりますと、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症患者とされています。団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者数は700万人にも達し、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者になるとも言われます。

 

これだけ認知症は他人事とは言えない社会全体の課題になってきていますが、まだ日本では「認知症は恥ずかしいもの」といった後ろめたい考え方があって、認知症を早期に治療することができないことが多いです。また、ほとんどの人には認知症に関する知識と理解が足りず、認知症患者の異常な言動にひどく混乱し、家庭が崩壊するまでの大きな問題に発展するケースも後を絶ちません。

 

その為にも、家族や自身に認知症が発症する前から認知症のことを知り、認知症患者の気持ちを害することなく、スムーズに早期の認知症治療と予防などの対応が取れるようにする必要があります

 

2.認知症の種類はこんなにもたくさん、症状と対応も異なる

 

①アルツハイマー型認知症

認知症の中でも最も多い認知症、認知症患者の6~7割がアルツハイマー型認知症と言われています。この認知症の原因は脳の正常な神経細胞が壊れてしまって起こる脳細胞の萎縮と言われています。

 

アルツハイマー型認知症の初期症状(1年~5年ほど・人によって差が大きい)としては、物忘れが多くなります。しかし、物事を忘れていること自体を忘れてしまうことが多く、認知症の自覚が難しいことも多いです。病状が進行すると最近の記憶が残りにくく消えやすくなり、過去と現在の区別が明確にできずに混乱することが多くなります。そのために今では仕事などしていないのに、昔の習慣的記憶から仕事に行くと思い込んで家の外に出たり、夜間徘徊したりと異常行動がみられるようになります。症状が末期に入ると脳の萎縮によって言葉が話せられなくなったり、便意や尿意を感じたり表現できないために自立した排便ができなくなることも多いです。

 

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また、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の場合、糖尿病によって発症する可能性が倍近くあがるとの最近の研究報告もあります。

 

②脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳出血や脳梗塞などの脳血管の障害によって起こる認知症です。この認知症はアルツハイマー型認知症についで患者数が多く、認知症の約20%が脳血管性認知症と言われています。この認知症は、脳血管が詰まったり血圧によって膨張したりすることで、徐々に脳に与える物理的な負担が大きくなり、認知症や運動機能障害を引き起こします

 

脳血管性認知症は、高血圧症や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病による血管障害が原因と言われています。そのために適切な服薬と適度の食事管理が必然と脳血管性認知症の予防に繋がります。また、脳血管性認知症の原因となる脳血管障害を早期に治療してリハビリを行えば、症状の進行を抑えることも出来ます

 

脳血管性認知症の初期症状としては、患者のあらゆる意欲の低下、不眠や不穏が目立ち、身体の不調にもつながりやすいです。また、その症状は変わりやすく、一時的な不調やうつ病と勘違いされることもあるので、早期の認知症診断と治療が遅れることもあります。脳血管性認知症は障害のある脳の部分が限定的で、認知症による身体機能(歩行機能や言語機能など)の障害も限定的に表れることが特徴です。しかし症状が進行しても時々正常な判断力が働くことも多く、場合によっては本人と家族の心的な負担が増すこともあります。なお、脳血管性認知症は血管性発作が起こる度に脳の機能が大きく低下する傾向にあります。症状が段階的に重くなります。

 

③レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体というタンパク質が脳にたまることで発症する脳細胞の萎縮が原因と言われている認知疾患の一つです。レビー小体タンパク質はパーキンソン病の原因にもなる因子のため、パーキンソン病を伴うレビー小体型認知症の患者も少なくありません。

 

レビー小体型認知症は、パーキンソン病に似て体の動きが緩慢になる症状がみられ、歩行が不安定になったり全身の関節部が固くなってきて転倒しやすくなります。また、患者によっては怪しげな人や動物、虫などが昼間でも鮮明に見える幻覚を見ることがあったり、幻聴をを聞くこともあるので、突然の不安と異常行動の原因になります。また、睡眠時にみる夢や幻覚と幻聴の影響で踊りだしたり、徘徊したりする異常行動を引き起こすこともあります。レビー小体型認知症の患者は、病気が進むにつれてコミュニケーションが取れないことはありますが、時によって認知機能の起伏があります。認知機能が比較的に正常な時は話が通じるなど問題ないようにも思えますが、認知機能が悪くなる時は、会話はもちろん、周りの状況と環境の理解もできずに極度の不安と不満をあらわにするなど、気分や態度、行動がころころ変わります。

 

④前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症の多くは初老期に発症します。この認知症は他の認知症に比べて患者ごとの症状がかなり異なるもので、同じ前頭側頭型認知症とはいえ多くの認知疾患の総称として考えたほうがよいです。まお、この認知症は10年以上にかけてゆっくり進行することが多い

 

前頭側頭型認知症の症状の代表的な症状は、極端な性格や人格の変化です。きちんとしていた優しい方でも、自分の体や周囲の環境を清潔に保てなかったり、頑固になったり、暴力や暴言を行い、時には犯罪に対する意識が薄れて万引きなどを犯したり、家族を性的に暴行しようとしたりもします。また、その場の状況とは関係なない言葉を繰り返して言い続けたり、物事を指す言葉や文章の理解ができなくなったりして、自立した生活は不可能になります。

 

3.認知症の進行度合いと種類に合わせた服薬と対応に気をつけましょう

 

認知症はほとんどの場合、軽度な認知疾患から始まります。患者本人も自分の認知疾患にある程度は気づいていることは多いですが、自分の認知症を受け入れたくもないし、認めることはできません。このように、不安でいっぱいな初期認知症患者に対して無理矢理に病院診断に連れていくのは禁物です。患者本人からすると、完治しない認知症になるというのは癌(がん)になったときよりも絶望的な死亡宣告ほかなりません。そのためにも、最初から高齢者を「精神科」につ入れていくのも高齢者には非常に大きな心の傷になり得ます。最初は「老年科」や「物忘れ外来」、「心療内科」を選ぶ必要があります。また認知症患者本人のプライドを理解し、本人の不安と不満をなだめたうえで適切な診断や服薬に繋げていきましょう。

 

なお、上述したように認知症の種類はたくさんあります。そのために認知症患者の症状と合った薬は様々です。種類の異なる認知症患者に同じ薬を投与することで患者の心理がより不安定になったりとする副作用が発生したり、認知症の進行に効き目がなかったりすることもあります。そのために、一度は大きな病院で検査を受けて正確な認知症の病名を確認してもらうことが大事です。

 

さらに、認知症患者の「わからない」不安と不満は健康な人には理解しにくい異常行動として現れます。理解のできない言葉を繰り返したり、小動物のように周りの人に怯えてしまったり、物を投げたり人を殴ったり暴言を吐いたり、などなど様々です。介護者の家族にはとても耐えられるものではありません。しかし、認知症患者の理解できない異常行動にも患者なりには理由があります。その理由を理解しようと少しばかり気を配り、患者の話に合わせて言葉を交わし、リアクションをとってあげることが患者の心を落ち着かせて、結果的に介護者にも介護しやすい穏やかな状況になりやすくなります。

 

①レビー小体型認知症の患者の対応事例

私がお会いした患者さんの中にいたレビー小体型認知症の患者の場合、「空からなにが落ちてくる、ね、空からなにか落ちてくる・・・」と繰り返すこともありました。最初は家族の方も混乱し、無視し、暴言やケンカの毎日で、本人と家族ともに最悪な状況でした。

 

そこから老人ホームに入居して介護職員が毎日のように「そうだね~そうだね~すごいね~、どこ? と」やさしく話をきいてあげると気持ちが落ち着いてきて問題行動は完全に消えたこともあります。今では家族ともお互いに笑顔で時間を過ごせられるようになりました。

 

②アルツハイマー型認知症患者の対応事例

夜間に徘徊しながら服を脱いで奇声をあげる方がいました。家族の方も非常に困っていて、その後入居された老人ホームでも最初は非常に困っていました。しかし、よくよく本人を観察するとお腹の調子が悪いことが多く、便秘気味でイライラすることが多かったです。

 

実は便秘が夜間徘徊と脱衣と奇声の原因でした。言葉で伝えることができなかったが、便秘による不快感で夜起きてトイレに行くと思って徘徊し、便をすると思って服を脱いでいて、助けを求めて言葉にならない奇声を上げていたのです。そのために主治医に相談して便秘の薬を調整してもらって食事を変えたところでほとんどの異常行動がなくなりました。

 

このように、認知症患者の異常行動には必ず理由があり、その理由を理解して言葉をかけてあげたり、適切な薬を出してもらったり(ちゃんと指示通りに飲み)、生活習慣を見直すことで患者本人の気持ちが安らぐことが多いです。毎日介護をしている家族には今以上に心的負担のあるものかもしれませんが、これこそが長続きする認知症患者介護の基本なのです。

 

認知症患者の介護で戸惑い、疲れているみなさん、一度立ち止まって考え、地域の包括支援センターやケアマネ、グループホームや老人ホームに頼りながら、ほっと一息つきましょう。あまり頑張らないでくださいね。