高齢者介護のあれこれ

介護相談員の在宅介護ガイド

老人ホームの入居金、なぜ払うの? 戻ってくるの?

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1.不安がいっぱいな老人ホームへの入居

日本は進む高齢化社会にともなって、老人ホームの入居者も年々増えています。しかし老人ホームへの入居なんて、ほとんどの人は初めてのこと。特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などなど、基礎的な施設の種別だけにしても何がなんだかよくわかりません。それに高齢者の施設検討というものは、家族の家との距離、医療と介護の体制、認知症のケアなどなど、家を買うよりも考えなければいけない要素が多いものです。なのに、「入居先がひどかったから退去しちゃった、もう金もないし行く当てもない」なんて悲しい出来事も高齢者の間ではちらほらと聞こえてきます。老人ホームへの入居には数百万円のまとまった入居金を収めることもよくあって、間違った施設入居で大切な老後の資金を失くしてしまうこともあります。

 

2.老人ホーム入居費用は、入居金+月額料金+実費

まず、老人ホームへの入居を初めて検討する方の為に、老人ホームに入居するときの費用について簡単にまとめてみます。老人ホームの入居の時は入居時に一括払いする入居金、そして毎月払う月々の家賃と食費などの料金、そして介護保険や医療保険の自己負担金や、場合によっては追加の介護サービス費やおむつ代などがかかります。

 

最近では東京都をはじめとする行政が施設入居時に入居金払わせないでほしいとの勧告が出ていて、入居金0円で月額と実費負担のみの老人ホームも増えてきました。そのために入居金負担が軽くなった施設も増えていますが、入居金の負担が月額料金に上乗せされることで月々の負担は増えています。入居金は1回払ってしまえば済む終身契約にもとづくもので、新たに他の老人ホームに入居する以外では改めて入居金を払うことはありません。そのために、高い月額料金を長い間払い続けるより5年を超過して入居する場合はまとまった入居金を払ってしまうほうが最終的に経済的なのです。

 

【入居金型契約と月額料金契約の費用の差】

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  • 入居金型契約例

 

【入居金380万円・月額料金17万円】

1年入居時の累積費用 584万円(月平均48万円)

3年入居時の累積費用 992万円(月平均27万円)

5年入居時の累積費用 1400万円(月平均23万円)

10年入居時の累積費用 2420万円(月平均20万円)

 

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  • 月額料金契約例

 

【入居金0円・月額24万円】

1年入居時の累積費用 288万円(月平均24万円)

3年入居時の累積費用 864万円(月平均24万円)

5年入居時の累積費用 1440万円(月平均24万円)

10年入居時の累積費用 2880万円(月平均24万円)

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▲このように5年を境にまとまった入居金を払った方が最終的な費用が安く済むことが分かります。また、高い月額料金を払い続けるのは、「今後何年入居するかわからない=今後いくらかかるか分からない」不安もあるので、将来の費用を抑えるにも入居金型契約が良い場合もあります。もちろん、余命が短い方や5年以内に長期入院の可能性が高い方は月額料金契約がお得になります。

 

3. 入居金はなぜ払うの? そもそも何なの?

入居金は本来、月額家賃の補てん額の前払い金といった名目で収めるお金です。つまり、「居室の家賃を前もって払っておくことで月々の家賃を少なく払いましょう」といった契約形態なのです。上で述べたように、入居金型契約は長期入居者にとっては将来の経済負担が軽くなったり、施設運営会社としては施設運営のまとまった資金が手に入るので相互にメリットのある仕組みなのです。入居金は、実際に入居者が平均5年でご逝去、入院による退去(老人ホームの平均入居年齢が80歳半ばなので)されることから、入居時に入居金の2~3割を償却(初期償却)し、残りを5年間にかけて均等に償却するケースが多いです。

 

老人ホームの実情として、高級な老人ホームも割安な老人ホームも入居者が毎月数十万円を払っているのにも関わらず多額な人件費や施設の修繕費に金がかかるので採算性が低い(儲かりません)です。施設によって異なりますが、老人ホームは居室の70%~90%が埋まっていてやっと現状維持のできる収益が確保できるので、ほぼ満床でなければ老人ホームは黒字にならないのです。そのために老人ホーム運営会社は、5年を満たさずに退去する方からの合計収益を高めたり(初期償却がある分、短い入居は施設側の利益率に貢献します)、まとまった運営資金を得るために入居金型契約を好む傾向にあります。

 

4.収めた入居金は戻ってくるの?

実はこの入居金、契約で定めた「入居金償却期間」以内に退去する場合は戻ってきます。入居金は敷金ではなく、家賃補てん額の前払い額なので、一定期間(一般的には5年、健康型老人ホームは6年~15年が多い)に渡って毎月均等に償却されていきます。たとえ、2年入居して退去する場合は残り3年分の入居金が戻ってくるのです。償却期間の5年を過ぎると退去しても戻ってくるお金はありません。このような制度があるために施設に入居してから入院やご逝去で早期退去される場合は入居金の一部が保全されるので安心です。

また、「入居してみたらやっぱり合わなかった」といった場合も少なくありません。この場合、普通ならば入居金の初期償却分として2~3割が償却されて消えてしまいます。仮に入居金が500万円であれば入居して1週間で退去しても150万円が消えてしまうのです。しかし、入居後3か月以内であれば入居金の初期償却をしないクーリングオフ制度を設けているので3か月以内に退去する場合は日割りで計算した入居金のみ償却し、初期償却はしません

 

5.入居金型契約と月額料金型契約、かしこい選択をしましょう。

老人ホームの入居金は数十万円から、数百万円、高級老人ホームでは3億を超えるところもあります。誰にとっても自分が入居する老人ホームの入居金は経済的に負担のかかるものです。入居者本人の状況をよくよく考え、悔いのない老人ホームの料金制度を選ぶようにしましょう。